「認知症の第一人者が認知症になった」
これは、12月11日(土)に放映されたNHKスペシャルの番組名です。
1974年に世界で初めて、痴呆であるかないかをふるい分けるための長谷川式簡易知能評価スケールを考案され、長年認知症の研究や診療、ケア職育成に尽力された長谷川和夫先生のドキュメンタリー番組でした。
長谷川先生は、2004年12月24日、「痴呆」に替わる用語に関する検討会員として、「認知症」が最も適当であるという報告書を厚生労働省に提出しています。これを受けて、長谷川式簡易知能評価スケールは長谷川式認知症スケールと名称が変わりました。
私は2004年に、社会福祉法人浴風会で高齢者痴呆介護研究・研修東京センター長、および国際長寿センター理事を務められていた先生に出会いました。
先生は常に素敵な笑顔でお話をしてくださいました。交通量の多い道で私が車道側を歩こうとしたら、先生はすかさず「あなたはこちら側を歩きなさい」と入れ替わってくださいました。それがとても自然で、レディファーストが身についていらっしゃると感じいったことが忘れられません。
また、「講演会で話すときに、どんなことに気を付けたらいいですか」と先生にお尋ねしたことがあります。先生は、「角田さん、講演会に来る人は話を聞きに来るのではないんだよ。見に来るんだよ。聞いたことは忘れてしまうが、見たことは覚えているからね」とおっしゃいました。先生が表情豊かに、時には舞台の上を歩き回ってお話しされる意味がわかりました。
昭和の頃は、講演の冒頭で「長谷川和夫でございます」というと、国民栄誉賞を受賞した日本映画界の二枚目スターである長谷川一夫を連想した聴衆がどっと沸いたそうです。それが、長谷川一夫を知らない人が増えてきて段々反応が薄くなってしまい、寂しいものだとおっしゃっていました。先生ご自身とてもハンサムで魅力がおありだという点で相通じるものをお持ちだと思います。
2013年に中央法規出版から『介護家族を支える電話相談ハンドブック 家族のこころを聴く60の相談事例』を上梓しました。その際に、先生に推薦の言葉をいただき、表紙の帯にさせていただいたのは私にとって大変な光栄なことでした。
2016年9月、浴風会を退職する際にご挨拶に伺うと、いろいろな思い出話をした後で「寂しくなるね」とおっしゃってくださいました。そして、「ちょっと待って、あげたいものがある」と2015年発行の先生と先生のご子息洋氏との共著である『よくわかる高齢者の認知症とうつ病:正しい理解と適切なケア』に達筆なサインをしてくださいました。
その、一年後の2017年10月17日、東京都港区のヤクルトホールで全国公私病院連盟主催の「国民の健康会議」で、先生と行天良雄氏の対談が行われました。久し振りに先生のお話を伺えることを楽しみにしていた私は、「私自身も認知症でアリセプトを飲んでいるんです」という言葉を聞いたのです。
その後、11月に嗜銀顆粒(しぎんかりゅう)性認知症と正式に診断されたそうです。
先生は認知症であることを公表された後も、認知症の人やその家族のために活動をされています。
『ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言』という著書(猪熊律子氏との共著)を2019年12月27日に上梓されました。私もさっそく読ませていただきました。
今日(2020年1月28日)のアマゾンの脳・認知症の関する本の売れ筋ランキングで1位になっています。
たくさんの人が先生の願いを受けとめて、行動していただけたらと思います。
つのちゃん
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