みなさん、こんにちは。wiwiwワーママ社長の佐藤歩美です。
このたび、ラスベガスで開催された世界最大の人事プロフェッショナル組織「SHRM」のAnnual Conferenceに参加してきました。
アメリカに行くのは約20年ぶり。銃による事件のニュースが毎日のように流れてくることと、英語力も錆びついているので不安でしたが、単身約1週間、ラスベガスに滞在してきました。カジノでゲームをしてきたのかとみなさんに聞かれますが、あまりの物価の高さ(ペットボトルの水500mlが4ドル→約600円!)に消費意欲がまったく沸かず、交通の便も悪いのでConferenceに参加する以外の時間はホテルでおとなしくしていました。
それではここから、アメリカの人事の動向、DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)や女性活躍の動向について、人事ご担当者の皆様、DEI担当の皆様にご報告したいと思います。
SHRM Annual Conferenceって何?
SHRM(Society for Human Resource Management)は人事のスペシャリストに学びやネットワーキングの場を提供している団体で、今年で創立75年です。世界165カ国に32万人超の会員がいます。そのSHRMが毎年開催しているのが、Annual HR Conferenceです。Pre-Conferenceを含めて6月10日から4.5日間、世界最大級のコンベンションセンターであるラスベガス・コンベンションセンターで盛大に開催されました。
Annual HR Conference2023では、元米大統領のビル・クリントンの講演や、世界的ベストセラー作家のミッチ・アルボムなどによる基調講演のほか、DEI、リーダーシップ、タレント・マネジメント、採用と定着、戦略的人事、雇用に関する法律・規制などをテーマに、400を超えるセッションが行われました。
私は、DEIとリーダーシップを中心にセッションに参加してきましたが、DEIをテーマにしたセッションは約60、リーダーシップをテーマにしたセッションは約90もあり、同じ時間にいくつも開催されており、DEIがアメリカの職場において、非常に重要なテーマであることが肌で感じられました。
アメリカのHRの動向
「メンタルヘルスケア」と「スキルベースの雇用促進」がSHRMの重点取組課題で、スキルベースの雇用については、学歴ではなく、Certificateでスキルを認定し、雇用していこうよ、というメッセージです。裏には退役軍人の雇用の問題などもありそうでしたが、産業構造の大きな変化、ChatGPTなどの新技術の登場により、スキルベースの雇用が重要になっているとのことでした。日本でもジョブ型雇用への転換が少しずつ始まっており、リスキリングが急務とも言われています。「学歴」より「スキル」の時代になりつつありますね。大学に入学して、企業に入社したらそれで安泰ではなく、新しいスキルをどんどん身に付けていかなくてはいけない、という流れが加速していることを改めて実感しました。
「人材の定着」も、それぞれのセッションで共通して出てくる優先課題のようでした。アメリカはジョブ型雇用なので、ジョブがなくなったら解雇、というドライな雇用関係で、離職率など気にしていないのかなと、思っていたのですが、ジョブ・ディスクリプションは、雇用時に書きはするけれども、実際の仕事の内容は異なっていることが多いそうで、離職率低下施策を積極的にやっており、日本とあまり変わらないなと思いました。人材の定着にあたっては、一律の賞与や給与引き上げではなく、組織に貢献している人に還元しなさい、という話があったり、年功序列で管理職登用が行われておりマネジメント力の低さが離職の理由になっていたりと、程度の差があるのかもしれないですが、これもあまり日本と変わらない、という印象を受けました。
「組織文化の醸成」と「働き方」もトピックにあがることが多かったです。日本と同様に経営層は「Back to Office」を求めるけれど、従業員は、ハイブリッドを望んでいるそうで、そこに正解はない、人事がその間を調整しなければならないとのことでした。また、人事としては、ハイブリッドでないと優秀人材の確保ができない、と考える一方で、むずかしさを感じているのがオンライン勤務の人が増えた中での組織文化の醸成・継承、組織横断的なコミュニケーションとのことでした。それに対してはそれぞれの組織において、組織横断型の研修を実施するなどの工夫がされているようです。
ご存じのとおりアメリカでは人事は専門職です。日本は、メンバーシップ型雇用により、人事も営業や技術などさまざまな経験の方が異動されて職務につき、数年でまた別の部署に異動するというゼネラリストを育てる形をとっているところが多いですね。しかし、「人的資本」こそが企業の成長の要であると、人的資本の開示が注目されるようになり、採用や育成など人事の果たすべき役割が大きくなりました。戦略的人事の実行という点においても、数年で人事担当者が変わるようだとむずかしいでしょう。日本においても人事は専門職とならざるを得ないのではと感じました。
アメリカのDEIの動向
どのセッションでも隣の人と意見や状況をシェアするという場面がでてくるのですが、たいていみなさん、DEIスペシャリストと自己紹介され、DEIも専門職の方が継続的かつ戦略的に施策を実行していらっしゃるようでした。なお、「DEI(ディー・イー・アイ)」が定着した共通言語として使われており、「Equity(公正性)」は当然含まれているもの、という点で、Equityの考え方がまだまだ広まっていない日本とは異なりました。
また、とてもインパクトのあった場面として、あるセッションの冒頭で講師の方が、「DEIってなぜやるんだっけ? “Same old thinking”?」と会場に投げかけると、参加者の皆さんが、「Same old results!」と声をそろえて答えていました。「これまでと同じ考え方だと、これまでと同じ結果しか生まない」、つまり多様な考えでよりよい結果につなげる、という価値観が、アメリカには根付いているのだな、と実感しました。
日本で現在、デモグラフィックダイバーシティとして取り上げられているのは、ジェンダー、年齢、障がいの有無、LGBTなどですが、アメリカは、多民族国家ゆえに、Race(人種)やEthnicity(民族性)がダイバーシティの中でも大きな要素を占めます。特に根深いのが黒人への差別。それからヒスパニックやアジア系などのEthinicityや、それから退役軍人、元犯罪者なども属性のダイバーシティとして取り上げられていました。それが、黒人×女性というように課題が絡み合っています。講師は、自分自身がLGBTの方だったり、黒人女性だったり、アジア系女性だったりとマイノリティの立場で自分自身の経験や、もしくは経験を語っている方のYouTube動画などを使って、どのようなアンコンシャス・バイアスがあるのか、職場における差別があるのか、といった話を、時に情熱的に、時にユーモラスに話していましたが、職場という以上に「生きる」という視点でダイバーシティが語られてたのも印象的でした。
内面的なダイバーシティという点では「Cognitive Diversity(認知のダイバーシティ)」があげられており、いつも同じ考え方だったらいつも同じ結果しか出てこない、VUCAの時代、考えや学びを意識的にシフトできる敏捷性が求められるという講義がありました。また、コミュニケーションにおけるゴールに達成する(たとえば、自分の提案を通すといったゴール)ために、相手の考え方に合わせたコミュニケーションをするのが重要、そのためには、まず自分を思考のクセを知ることと、相手の思考の傾向を知り自分のコミュニケーション方法を変えること、という説明がありました。たとえば、数字を重んじる思考の人に、それを実行することでどれだけ従業員のハピネスにつながるかということを情熱的に訴えても意味がない、というようなことです。当然と言えば当然のことですが、なかなかできていないのではないでしょうか。またダイバーシティ、というと相手を受け容れることに視点がいきがちですが、相手を動かす、というのも重要な要素、と感じました。
Inclusive work placeの要素としてあげられていたのが、アンコンシャス・バイアス、心理的安全性、それからEmpathy(共感力)ということばをよく聞きました。あるセッションの司会者が、今年は「Empathy」が流行りみたいだね、と言っていたくらいです。日本では、アンコンシャス・バイアスということばは、ある程度浸透してきていて、これから心理的安全性に取り組む、というところが多いでしょうか。共感力がない職場では、従業員は意見を言わない、共感力がある職場は職場定着率が高い、というデータも示されていました。
アメリカの女性活躍の動向
日本とアメリカの女性活躍は、課題は同じでも、その度合いが異なる、というように感じました。アメリカでも、C-suites (CEO, CFOなどCのつく会社の経営の中枢をつかさどる役職一式を指す)における女性の割合や女性管理職の割合が男性と比較して少なく、パイプラインができていないことが課題となっており、男女間、人種間、民族間のペイ・ギャップ(給与格差)も話題となっていました。
やはり、上司が男性に偏ったキャリア支援をしていることや、トップによるコミットメントが足りていないことなどの周囲の環境面、それから女性は男性と異なり、「Double bind」といって、矛盾するメッセージにより混乱した状態に置かれていることが指摘されていました。一方で、リーダーとして強く決断力のある姿を期待され、一方できめ細やかに配慮するやさしさを期待されており、強いリーダーシップをとると、女らしくないと言われ、細やかに配慮するとリーダーシップに欠けているとみられるといったことです。
それから、家事育児分担の不平等について、コロナ禍は特にひどく、育児が理由で退職する人も多かったそうです。また、女性側に、自分がやらなければならないといけないという本人の思い込みで、家庭においても仕事においてもたくさんのものを抱え込んでしまう、という傾向は日米共通だなと思いました。
自信がない、このようなキャリアを築きたいという強い意思がない、といったことも指摘されていました。また、人的ネットワークの重要さも指摘されています。男性は、男性のネットワークの中で自然と引き上げてもらえますが、女性はそうではない、ということで意識してネットワークを作らなくてはいけないし、自分の困っていること、自分のキャリアをこうしていきたい、ということを、組織において権力のある人にしっかり伝えなくてはいけない、ということも話されていました。
Pay Equity(給与における公正性)についても日本ほどの差ではないけれども、差があり、参加している女性たちはかなりヒートアップして話していました。組織的な問題だけでなく、女性が採用時に、男性に比べて給与交渉をしないことも要因、という人事の立場として感じている問題も共有されました。組織にいる誰かが応募者(女性)に給与交渉するように促さなければならないということで意見が一致していました。
番外編1:基調講演のビル・クリントンとミッチ・アルボム
ビル・クリントンは、FMLAという労働日数12週内で育児休暇、介護休暇などを取得する権利を与える法を制定しています。多くの人が1年程度育児休業を取得する日本からすると、たったの12週、ですが、その功績は大きく称えられ、アメリカのHRに高く評価されていました。また、多様性がアメリカの強さだ、とおっしゃっていて、そんなところも人気なのかもしれません。
ミッチ・アルボムは、スポーツキャスターとしての名声を追求していたころのこと、死期が迫っている孤児を引き取って生活したときのこと、筋萎縮性側索硬化症(ALS)にかかった大学時代の恩師、モリー先生と生と死について語り合ったことなどについて話しました。生きること死ぬこと、働くこと、いろいろ考えさせられ心を動かされました。多くの人が涙しており、私も改めて、「モリ―先生との火曜日」を購入して読み始めています。
番外編2:ダウン症のバービー人形
帰りの飛行場で、別のイベントでラスベガスに来ていたMattel, Inc. の日本法人の方とお話しさせていただきました。マテルはバービー人形などのおもちゃの販売をしている企業ですが、少し前に、ダウン症のバービー人形を発売してニュースにもなりましたね。トーマスに自閉症のキャラクターもいるそうです。その方は、おもちゃを通じて子供たちや社会にダイバーシティの理解を進める取組なんだとお話ししてくださいました。そういった取組をしていることも先進的ですが、従業員の方にその会社のビジョンが浸透しているところもすばらしいな、と思いました。
番外編3:ワーキングマザーの海外出張準備
最後に自分の話を少しだけ。
私には、小学校1年生と5年生の娘がおり、今回の出張は1週間と長いのでかなりまよいました。夫は、家事育児は問題なく、2泊くらいなら安心して任せられますが、1週間となると心配です。夫はフィリピン人で漢字が読めないので、娘の学校のフォロー・習い事全般を私が担当しています。小学校は毎日たくさんプリントが配られ、急に何かを持ってくるように、という連絡がくることも少なくありません。毎日の宿題チェックもありますし、習い事もあります。両親に頼むにしろ、さすがに毎日は体力的に難しいだろうと思い、4日夫、4日両親、という形でシフトを組みました。紙に書いてみると、自分がどれだけ複雑なミッションを毎日こなしているのかよくわかりました!まさに女性は仕事をすべて自分で抱え込みがち、の典型です。
出張時に運悪く、学校でプールとタブレットの利用まで始まり、両親はタブレットの操作はわからないので、5年生の娘にフォローをお願いして、家族総動員で乗り越えてもらいました。みんなで育児を分担する、ということが出張を通じて実現できたように思います。
アメリカからは毎日電話をし、しばらく朝も夜も泣いている、という状態でしたが、だんだん慣れて笑顔が見れるようになり、やっぱりなんとかなるもんだな!と思いました(帰ったらかなり赤ちゃん返りしてしまって大変でしたが)。もし、子どもがいるから…とキャリアでまよわれている方がいらっしゃったら、案外なんとかなるのでぜひ一歩を踏み出していただきたいな、と思います。
「SHRM」Annual Conference 2023 in ラスベガス参加レポート をお読みいただき、ありがとうございました。当社では、企業におけるDEI、女性活躍推進を支援しております。ぜひお気軽にご相談ください。