2007年に「いきいき推進室」(現ダイバーシティ&インクルージョン推進室)を立ち上げ、女性活躍推進をはじめとするダイバーシティ推進を開始した全日本空輸(以下ANA)様。女性活躍だけにとどまらず、仕事と介護の両立支援についてもいち早く取り組みをはじめています。近年は、介護を担う可能性が高い51歳以上の従業員には、仕事と介護の両立セミナーを受講必須とするなど、積極的な支援を行っていらっしゃいます。そんなANA様に、具体的な両立支援の推進内容や、今後の展望についてお伺いしました。
グループ一体となった仕事と介護の両立推進への取り組み
宇佐美様 ANAでは、2007年に「いきいき推進室」を立ち上げ、仕事と育児の両立などの女性活躍推進を、2010年には仕事と介護の両立支援にも取り組み始めました。2015年には、誰もが活き活きとやりがいを持って働くことで、揺るぎない信頼とたゆまぬ変革を生み出すANAグループを創ることを目標としてANAグループ統一の「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を発表、「ダイバーシティ&インクルージョン推進室」を立ち上げました。ダイバーシティ推進の対象も女性や介護だけでなく、障がい者やシニア、外国籍従業員などと広げています。
wiwiw グループ一体となっての取り組みには難しさもあるのではないでしょうか。どのような工夫をされましたか?
大木様 グループ企業全社がアクセスできるイントラネットに、経営トップやマネジメント層が部下の育児・介護などを応援するために7つの事項を宣言する「イクボス宣言」を掲載してワークライフバランスを支援するという会社のメッセージを発信しました。その中には、副社長の「会社も職場も必ず理解してくれる。介護を理由に仕事を諦めないで」という直筆メッセージもあり、従業員から「勇気づけられました」「退職を悩んでいたが踏みとどまりました」といった反響がありました。
仕事と介護の両立セミナーは、51歳から受講必須に
wiwiw 2010年に始められた仕事と介護の両立推進活動はどのように継続されているのでしょうか。
宇佐美様 介護セミナーは年2回程度開催することから始めています。スタートしてから10年近くたちますが、現在は、従業員の誰もが参加できるように、年4,5回開催しています。自由参加型セミナーには、介護に関心がある人や介護に直面している人が出席しますが、セミナー後のアンケートでは「管理職には全員聞いて欲しい」「マネジメント層の理解が必要」という声が非常に多くありました。
大木様 このような声を受け、2017年からは、51歳に到達した従業員が受講必須となっている「ANAライフキャリア研修」に、介護に関する内容を追加しました。昨年は、管理職を含めた300名近くが受講しています。
管理職向けにロールプレイングメインのセミナーで介護に直面した部下へのマネジメントを学ぶ
大木様 2018年には、wiwiwの人事向けセミナーに参加したのをきっかけに、wiwiwにセミナー開催を依頼しました。上司役、部下役、審判役と担当を振り分けて行うロールプレイがとても印象的でした。
wiwiw 前日に救急搬送され介護が必要となった父親を持つ部下役が、今後について相談するため上司役と面談をするという介護の初動時のシナリオで行いましたね。
大木様 これまではインプットとディスカッションメインのセミナーが多かったのですが、ぜひ自社でもやってみたいと思いました。このセミナーは、「管理職には全員セミナーを受けてほしい」という従業員の声にこたえるため、51歳に満たない管理職にも受講してもらうよう管理職向けセミナーとして開催しました。約40名の管理職が出席し、8割以上が大変満足という結果となりました。「介護を理解しているつもりだったが自分の考えを押し付けているのだと気付かされた」、「働き方を変えていかなければ組織運営が困難になると思った」、といった感想を聞くことができました。
wiwiw 介護の問題だけではなく、部下とのコミュニケーションの具体的方法や働き方改革と両立の関係についても盛り込んだセミナーを開催させていただきました。お役に立ててよかったです。
セミナーも相談会も家族同伴を推奨
wiwiw 管理職セミナーと一緒に、wiwiwキャリアと介護の両立相談室長 角田による介護両立相談会も提供させていただきました。
宇佐美様 相談会の参加者からは、「介護に直面しており、大変有意義なアドバイスをいただけて本当にありがたかった」などの感想がありました。
wiwiw ありがとうございます。御社は、家族同伴で相談会やセミナーへの参加を推奨していることが特徴ですね。
宇佐美様 もともと、仕事と育児の両立セミナーで、配偶者や祖父母など「育児のパートナー」と参加することを推奨しています。介護セミナーや個別相談会でも発想は同じで、家族と参加してほしいと考えています。この相談会では、「離職を考えていたが辞めずに両立したい」、「直近で自分の取るべき行動が明確になった」といった声をもらっています。
wiwiw 介護は個別性が高いので、きちんと相談の場を設けて、一人ひとりの悩みや課題に寄り添いながら、次のアクションを起こすことがポイントですね。
相談しやすくお互いに助け合う風土づくりで「隠れ介護」をなくす
大木様 平均年齢が上がり、介護に関して何かしらの事情を抱える従業員が増えていくと予想しています。ただ、介護をしていることを会社に相談しない人も一定数いると考え、相談しやすい風土づくりにも取り組んでいます。社内のキャリア支援室に介護の相談窓口を設置し、キャリアコンサルタントの資格をもった15名の従業員がさまざまな両立に関する相談に応じています。キャリアコンサルタントには、事前に必ず介護セミナーを受講してもらい、介護への知識を深めてもらっています。
宇佐美様 遠距離介護に直面し、退職すべきか悩んでいる従業員が相談に訪れた際は、面談を通じ退職以外にも選択肢があると気づき、仕事と介護を両立し始めたこともありました。
大木様 加えて、社外相談窓口も設置しており、専門家からの介護の知識を得る場としても活用してもらっています。
すべての従業員が個性や強みを生かしチームで支え合う強い会社へ
wiwiw 最後に、仕事と介護の両立支援において、今後の目標を教えてください。
宇佐美様 すべての従業員が強みを活かして活躍できる会社にしていくため、制度や環境を整えてサポートしたいと考えています。法的な制度は整備できていますが、これだけでは限界があります。お互い様の意識やサポート精神の醸成が大切と考えています。責任感が強く周囲に頼ることが苦手な人もいますが、周囲を頼ることで最終的にはチームとして支えあいアウトプットを最大限にすることが重要です。どうしたらチームや部でいい成果を出せるか。そのためには、何事も1人で抱え込むのではなく、外部サービスを活用しながら、頼ることは悪いことではないと伝えていきたいです。チーム力を高め、仕事も介護も家族とともに支えながらお互い頼りあって乗り切ってもらいたいと考えています。すべての従業員の活躍を支援していきたいと思っています。
wiwiw 貴重なお話をありがとうございました。
本インタビュー内容は、ダイバーシティ先進企業の取り組みをご紹介する弊社新聞「Calip」でも記載しております。紙面ご請求はこちらまで。